品川区役所本庁舎にある「誰でもトイレ」から考えた!!

『第6回日韓社会的企業セミナー』が、8月1~2日、明治大学グローバルフロントにて開催された。障がいがあってもそうでなくてもともに働く社会づくりをめざして韓国・日本の市民社会が毎年九龍するイベントで、今回の基調テーマは「社会的経済基本法制定と社会的経済の発展」(韓国)、{日本における社会的企業の現状と課題」(日本)。写真右から私吉田、白石えつこ(東村山ネット)、岩永やす代(国分寺ネット)、左端は山内れい子都議。

◆品川区役所本庁舎3階にある「誰でもトイレ」 

品川区役所本庁舎3階に「誰でもトイレ」がある。そのトイレには大人のおむつ交換に使えるベッドがあるのを皆さんご存知だろうか? 最近「誰でもトイレ」はだいぶ普及してきたが、大人用ベッドの設置は少ないと聞く。また、周知も徹底していないので、「誰でもトイレ」を探し当てて、扉を開けてみてからがっかりすることも多いということだ。

区役所は区民全てが利用する場所なのだから、こういうトイレはあって当然であり、誇って宣伝するほどのことではないが、でも知らない人が多いなら残念だ。外出に当たって、トイレ情報は誰にとっても大切なものだ。まして、ハンディを持っている方たちにとっては、快適な外出のためにどこにどんなトイレがあるかの情報は欠かせない。区に対してよりわかりやすい表示と周知を求めていきたい。

ちょっと気になるのがベッドの高さだ。私自身が両親を介護した時の感覚で言うと少し低いように思うのだが、利用するご本人にとっては車いすなどから乗り移りやすいのかとも思う。また、配置についての使い勝手はどうなのだろう。これについては、ぜひ利用者からのご意見をいただきたいと思う。

◆本当は「男女別誰でもトイレ」と「性別を問わない誰でもトイレ」と、両方が必要! 大人のおむつ交換が可能な、大人用(介護)ベッドの設置も

誰でもトイレ」については他にも皆さんと議論したいと思っていることがある。

ネットの継続提案が形になった品川区役所本庁舎3階にある「誰でもトイレ」。大人のおむつ交換に使えるベッドが設置されている。

81日と2日に第6回日韓社会的企業セミナーが開かれ、私は2日目に第二分科会「障害者就労と差別の禁止」に参加した。この分科会全体がとても興味深く、品川の自治体政策に活かせる事例など多くを学ぶことができたのだが、今ここで取り上げたいのは韓国の報告者のおひとりイム・スチョルさん(インチョン障碍友権益問題研究所所長)の報告の中に出てきた「誰でもトイレ」の話である。

イムさんの報告のテーマは「障害者差別禁止法をめぐる現状と課題」。日本では、来年4月にようやく障害者差別禁止法が施行されるが、韓国では2007年につくられている。韓国での法施行後の現状と課題の報告だった。その中で課題の一つとして「誰でもトイレ」のことが出てきたのだ。

獲得できていないことの一つとして、「男女別のトイレの中にそれぞれ『誰でもトイレ』を設置すること」が挙げられたのだ。「障害者の性の尊厳」を尊重すべきなのは百も承知なのだが、私は正直なところ「えっ?」と思ってしまったのだ。私が父を介護していた時、通院先で父が自分で車いすを操り、男性用トイレの奥に設置された手すり付トイレに向かってずんずんと入っていってしまったことがある。父は車いすは操れるが、トイレには介助が必要だった。また、耳も遠く少し認知症もあったので、私が「ちょっと待って!」と呼んでも全くお構いなし! 仕方なく、冷や汗をかきながら「すみません」を連発しつつ男性用トイレに入った。当然、利用していた方もギョッとした様子…。中のお一人が親切に、別に設置された廊下から直接入れる「誰でもトイレ」を教えてくださり、以後はそれを使うようになった。男女別のトイレに設置された手すり付きのトイレは「介助者と被介助者が異性であった時を想定していないもの」という印象だったのだ。

分科会に一緒に参加していたネットの都議山内れい子が同じように感じたのか、質問の1つとして私の疑問を代弁する質問をしてくれた。それに対する回答は「介護者が異性であった時のことは韓国では問題にならないだろう。男性トイレにも清掃員などの役割で女性が入ることもあり、誰も気にしない」ということだった。お国柄の違いか?と思いながらも釈然としなかった。分科会終了後、この分科会の報告者の一人、尾上浩二さん(DPI<障害者インターナショナル>日本会議副議長)が、山内れい子と私のところへ来て「本来は男女別誰でもトイレがあり、さらに性別関係ないトイレをめざすべきでしょうね」と整理をつけてくださった。

確かにそのとおりであり、尾上さんのコメントによって自分の考えを整理することができた。しかし、現実問題として場所と予算の制約がある中で優先順位をつける必要があるとき、どういうトイレを優先すべきなのだろう?と思うとやっぱり考えてしまう。

広がってきたとは言えまだまだ少ない「誰でもトイレ」。めざすところは男女別トイレと別なしトイレの両方設置だとして、広げる優先順位としてはどちらなのだろう? ぜひ多くの皆さんのご意見を伺いたいと思う。

ちなみに品川区役所の「誰でもトイレ」、他の「誰でもトイレ」に比べてそれほど広いスペースを必要としないように感じた。誰でもトイレを作るつもりなら、洗面台や便器などの配置工夫によって大人用ベッドの設置も可能なのでは、と感じた。もちろん当事者の方たちに使い勝手を確認しながら、ではあるが。男女別問題はこれから議論が必要としても、大人用(介護)ベッド設置の問題は急ぐべきではないのか、と思う。区役所のトイレを宣伝するのと同時に「これから誰でもトイレを作るなら大人用ベッドも」ということを広く訴えていきたい。(よしだ・ゆみこ)