2016年度予算特別委員会報告③ 品川区のいじめ防止対策はこれでいいのか?

さて、間が空いてしまったが、予算特別委員会報告を続けたい。今回は教育費について。教育費も質問したい内容がたくさんあり、絞り込みに苦慮するが、今回はどうしても優先したい問題が2つあり、それを取り上げた。「いじめ防止対策」の問題と「教育現場でのLGBTへの配慮」だ。

 
いじめ防止については、「いじめ防止対策推進条例案」がこの第一回定例議会に上程された。この条例案は完全な案文になってからいきなり議会に上程されており、その前段階での文教委員会での議論もなく学校現場での議論もなかった。これまでにも同じような手順の事例が多く、「大事なことは市民が決める」を掲げる生活者ネットワークとしては、「市民」だけでなく「議会」をも無視したこのやり方には大いに異論がある。

また、内容についても疑問がある。いじめ問題の解決には「なぜ、いじめが起きるのか?」まで掘り下げた議論が必要であり、そこには「子ども自身の参加」が必須である。また「いじめの加害者を罰する」ことだけでは、本質的な解決にならず却って問題を根深くする危険もある。しかるにこの条例案を読むと、<基本理念>に列記されている問題の解決主体に「子ども」が含まれていない。それなのに次の条文で「子どもたちはいじめをおこなってはならない」と、上から目線・上意下達の、いじめ防止対策と言うより禁止・命令条例の様相。そしてその後の条文で子どもたちの役割がしっかり定められている。いじめは、おとな社会の反映を含めて、子どもたちの社会の中で起きることなのに、そもそも自他の権利学習さえはかばかしくなく、無いに等しい条例とは?! 現象としてあるいじめ、その解決に子どもたちが主体的に参加することが想定されておらず、規制される対象として扱われているのだ。そのことに強い危機感を覚えた。

本来であれば、この条例案が付託された文教委員会で、条例の中味だけでなく議論の進め方についても意見が言いたいのだが、残念なことに品川・生活者ネットワークとして文教委員会には席がない。予算の問題として予算特別委員会で質問という形をとるしか方法がないのだ。

具体的に予算書の数字として表れるのはこの条例によって新設される「いじめ対策委員会」のための予算と、これまでにもあった学校支援チームに「心理、福祉等に関する専門知識を有する者」を配するための増額予算だ。この数字を足掛かりに、これらのメンバーとしてどのような人を想定し、どんな役割を担うのかという質問から入った。この質問の背景には2012年の重大な事件がある。その年、品川区ではいじめを受けた子が自ら命を絶つという本当に痛恨の事態を起こしてしまった。その際設置された調査対策委員会には、人権擁護に関わる人がメンバーにいなかった!! その子の立場に立ち、残された親御さんの気持ちに寄り添うべき専門家がいなかったということだ。これは大きな問題であり、品川区の教育委員会がそのことをきちんと受け止めているのか常々懸念していた。メンバーと役割を問うことで確認したかったのだ。

答弁は通り一遍で抽象的であり(詳しくは品川区のHPから議事録を参照してください)、本来であればさらに突っ込んで質問したかったのだが、「いじめ防止対策推進条例」について意見を表明するのはこの機会しかない。そこで先に述べた危機感とこの質問の背景にある問題意識を表明することを優先した。その上でもう一つ、この予算のなかで違和感を覚えた「いじめ等根絶普及啓発費」について質問した。この予算が増額になるのは良い。しかし、プレス発表を見ると2016年度の増額分はほとんどが「いじめ防止バッジ」に充てられるとのこと。その活用については「各学校で児童・生徒会が主体となって工夫する」とある。

先に書いた通り、この条例は<基本理念>で子どもたちをいじめ解決の主体として想定していない。それなのに、ここで急に「主体的に工夫する」? しかも、主体的と言いながら「バッジの使い方」に範囲は決められてしまっている。何かチグハグではないか? 主体的な活動とするのであれば、「どんな普及啓発の活動が有効か?」の議論から子どもたちに任せるという考え方こそでは? と質問をした。答弁は残念ながら私の疑問にストレートに答えるものではなく、はぐらかされた感じ。そして「こどもたちの主体性」を繰り返す私に、この「条例については、子ども主体、子ども自身によっていじめをなくしていくという趣旨であり、これは(条例の根拠となる)法にも同じような趣旨で書かれている」と言う。

条文に列記された解決主体に子どもたちが明記されていない以上、この答弁は後付けの「言い訳」としか思えなかった。が、ともあれ、教育総合支援センター長が公の場で「子どもの主体性を活かす」と発言したのだ。発言した以上、本当の意味でそれを実行してほしいと強く願う。生活者ネットワークとしてはそこに力点をおいて、学校現場での取り組みを注視していきたい。

 
もう一つの質問「学校現場でのLGBTへの配慮」については、また次回ご報告する。
<よしだ・ゆみこ>