スタディツァー報告の続きをお届けします。第3弾!
ご報告を続ける前に、台風の被害に遭われた皆様に心よりお見舞いを申し上げます。殊に、台風10号が襲った岩手の台風の被害には訪れた直後だけに、心を痛めております。被災各地の皆さまの一日も早い復興を願い、そして祈っております。
◆スタディツァー2日目 AFWのお話し
さて、間が空いてしまったが、スタディツァーのご報告の続きである。
農家民宿「ゆんた」で2日目の朝を迎えた。「ゆんた」は沖縄出身の若い男性が農業をやりながら一人で切り盛りする民宿。古い農家をほぼ手作業で改修して、素敵な宿になっている。詳しくご紹介したいところだが、他にもご報告がたくさんあるので残念ながら割愛させていただく。
「ゆんた」のご主人が用意してくれた朝食を頂いた後、また「遊雲の里」へ戻って今度は一般社団法人AFWの代表理事吉川彰浩さんのお話を聴いた。吉川さんは元東電の職員で、原発メンテナンスの総合管理をしていたという。AFWの活動は多岐にわたるが、そのミッションは少々乱暴を承知でまとめると「廃炉の現場と地域をつなぐパイプ役」を目指していると言って良いのではないか。次の世代に責任を持って原発事故後の故郷を託していきたい。そのためには色々な立場の人たちが納得できる廃炉が必要であり、規制当局や地域住民・東京電力の対話の場を作っていかなければならない。具体的には暮らしの視点で廃炉を学ぶ学習会支援や廃炉後の故郷を作るための地場産業支援などを行っている。そして、廃炉の現状を知りたい、行ってみたいという人が現場に行けるようにすることもやっているという。
お話しは通常の廃炉とはどのようなものか、そして福島ではどのような現状なのか、汚染水の漏れはどうなっているのか、と続いた。資料を見ながら、メモを取り、一生懸命伺ったが「私には少々難しい…」というのが正直なところだった。しかし、福島の廃炉の具体的な内容については、東京に暮らす私たちこそ理解する努力が必要だと感じた。機会があったら東京に来ていただいて、もっと多くの人たちと一緒に学習会ができたらよいと思った。
また、原発の現場にいた東電の人のお話を伺うのも初めてであり、やはり立場の違いを感じる点もあった。しかし立場が違う人たちが場を同じくして学ぶことがこれからは必要なのだということも実感できた。そう感じる人たちを増やす事こそがAFWの役割なのだろう。
AFWの学習会の後、「遊雲の里」に別れを告げて、一行を載せたバスはひたすら北上。最後の目的地である岩手県下閉伊郡山田町のゾンタハウスを目指した。
◆山田町ゾンタハウス・おらーほ
山田町のゾンタハウス・おらーほは、東日本大震災の後、児童福祉を専門とする森田明美先生(東洋大学社会学部教授)の提案によって立ち上がった。中高生の学習支援を行っているが、目指しているのは震災後の悲しみや不安で押しつぶされそうになっている若者たちにとって「学校帰りに気楽に立ち寄って、軽食を取り、友達とおしゃべりし、ちょっと勉強もできる」居場所となることだった。日本では、中高生は学校と家庭以外の支援が必要とは考えられていない。まして震災後の「支援体制」の対象からはすっぽり抜け落ちているのが現状だ。その現状を何とかしようと立ち上げられたのだ。
立ち上げ当初からずっとかかわってこられた船田さん、佐藤さんからお話を聴いた。ゾンタハウス・おらーほは国際的な奉仕団であるゾンタクラブ(ライオンズクラブの女性版のイメージと説明を受けた)からの復興支援事業に対する基金の提供を受けている。しかし、被災した土地で建物を探し、改修して教室にしていくためにはそれだけでは足りず、下駄箱やクッションなどは自力で調達、机は支援を受けるなど様々な力を集めて開設にこぎつけたという。ゾンタクラブからは基金の提供だけではなくて、物品の支援も受けた。開設後は実績を積んで赤い羽根などあちらこちらの支援を受けることができたようだ。ちなみに山田町からの助成はなし。現実問題として被災後の自治体は財政がひっ迫しているし、またゾンタハウスの場合は対象が限られているので公平性が欠けるので公的なお金を使うのは難しい。税金という性質上やむを得ないとはいえ、厄介な点だ。その点森田先生が獲得してくる『使い道など制約がない助成金』は本当にありがたかったというのがスタッフの実感のこもった言葉だった。
実は私にとって、ゾンタハウスの活動との出会いは今回が初めてではない。このHPでもご報告(2015.1.16、2016.2.2)している「東日本大震災で被災した子どもたちとおとなが一緒に考える意見交換会」にゾンタハウスからも参加しており、そこで昨年の1月に出会ったのが最初だ。その報告を参照していただきたいが、2016年の意見交換のテーマは「被災地への支援について、本当に必要で有効なものは何か?」だった。その時、ゾンタハウスから参加している子どもたちが一様に「自分たちにとって有効だったのはゾンタハウスと出会ったこと」と発言していたのがとても印象的だった。
ゾンタハウススタッフからお話を聴いた後、様々な質問が出たが、私からは「意見交換会」の時の子どもたちの「ゾンタハウス」に対する評価の高さの要因はどこにあると考えるか?と尋ねてみた。
「はっきり検証したわけではないが…」としながら話してくださった他のNPOとの違いは次のようなことだ。「・大人が前面に出ない・方向性を決めない・子どもの行動を制約しない」こまごまとした運営の事も子どもたちの意見で決めていくのだが、「子ども会議」というきちんとした形では開いたことがないという。スタッフとの関係でも気の合うスタッフとだけ親しくなるのもOKだし、気の合う子どもたちだけで集うのもOKだ。つまり「効率」とは対極の運営のやり方をしているという。
子どもたちの評価の高さを先に聴き、その後で尋ねてみればこの「緩やかな」運営は一見容易に感じられる。しかし、この方針を貫くには大人の方に胆力・覚悟が必要だろうな、と感じた。子どもたちと一緒に津波の現実をくぐり、乗り越えた人たちだからこその「子どもたちを信じる力」かと感じた。そしてその後ろ盾には森田教授が獲得してくる「制約のない助成金」があるのだろうと思った。
ゾンタハウスのような若者支援の在り方は実は被災地だけでなく、東京のような人の関係が希薄な大都会で「生きにくさ」を感じている若者にも必要だと痛感している。有効な支援の在り方についてヒントがほしいと思っていたが、支えようとする気持ちだけでなく子どもたちの力を信じることと「制約のないお金」を集めるしくみが必要だと感じた。
夏休み中のこの日は、テニスの大会などがあって子どもたちはなかなか現れなかった。でも、「せっかくの機会だから…」と駆けつけてくれたのは「意見交換会」でも会った子どもたち2人だった。2人とも将来への夢を持って頑張っている様子。若い子どもたちが生き生きと頑張る姿は私たちにとってのエネルギー源だ。エネルギーをもらったところで、この日の宿に向かって、ゾンタハウスを後にした。