「障がいのある人もない人も、ともに働く」実践に学ぶ

講演終了後、講師の浅川悦子さんをはさんで、左が吉田ゆみこ。浅川さんの活動に参加者は興味津々。コンチェルティーノが新しく始めたカフェにも見学に行きたいという声が上がった。

品川区の「風車の会」主催の講演会で、NPO法人コンチェルティーノの活動について伺う機会を得た。
「風車の会」は「障がいのある人もない人も生きやすい品川をつくる会」の愛称。障がいの有無にかかわらず生きやすいまちづくりをめざして活動している。毎年講演会を行なっており、今年のテーマは「障がいをこえて共に働く場をつくる」。講師はそれを実践しているコンチェルティーノの理事長浅川悦子さんだった。
コンチェルティーノは「障がいのある人とともに働く喜びを作り出す社会的事業所」を名乗っている。立ち上げのきっかけは、理事長の浅川さんが知的障がい児の保護者から「卒業後、社会の中で働く場が欲しい」という相談を受けたことだ。色々問い合わせても適当なところがなく、「無いのなら自分たちでつくろう」と2009年に任意団体でお掃除事業から開始、以後働きたい人の「できること」「やりたいこと」に合わせてチラシのポスティングや封入作業へと事業を広げている。

コンチェルティーノの最大の特徴は「徹底的に当事者に合わせて仕事をつくり出すこと」にある。仕事をメニューとして提示し、そこからできることを選ぶのではなく、本人の「できること」にあわせて依頼を受けた仕事を細分化、皆で補い合って完成させる。仕事によっては賃金も細分化、どの作業を何円にするかは、皆で話し合って決めるそうだ。徹底的に働く当事者に合わせた事業のやり方に会場からは「手間がかかりますねぇ」という感嘆の声が上った。この日の参加者は、ほぼ全員が障がい者かその支援者で、基本的に「障がい者本人の立場に立つ」ことを旨としている人たちだったが、コンチェルティーノの徹底ぶりは想定以上だったようだ。
もう一つの特徴は「就労継続A型・B型」や「就労移行支援」などの公的制度を全く使わないことだ。理由は「自由でいたいから」。メンバーの中にはそれらの制度を使った事業所にも通いつつ、コンチェルティーノで働く人もいるという。「公的制度を同時に2つは使えない」という制約がある中、それが可能なのもコンチェルティーノが制度外だからだ。これにも会場からは驚きの声が上がった。公的制度を使うことによって事業者も収入を得ることができ、それを運営資金に充てることが一般的だからだ。しかし、制度を使うことは制約を伴うこともまた事実だ。「もし、制度を使うことで私たちの活動が豊かになることがあれば、将来的には使うこともありうる」と浅川さんは語る。しかし、今のところその予定はないようだ。

コンチェルティーノは公的な障害者や困窮者の就労支援機関などと連携し、その受け皿になっている。事務所は世田谷区にあるが、他区の支援機関ともつながりがある。2015年には世田谷区からの働きかけで生活困窮者就労訓練事業所の認定も受けた。公的機関が小さな事業所であるコンチェルティーノに連携を求めるのは、「受け入れ先事業所が少ないから」に他ならない。生活困窮者就労訓練事業所が増えないことを課題とする厚労省からは「どんな支援が必要か」という意見を求められたこともある。障がい者当事者に必要な支援、事業所にとって必要な支援など「言いたい放題提案した」そうだが、そもそも障がい者と生活困窮者の自立支援が別物として進んでいることが大きな問題だと浅川さんは指摘する。生活困窮者の中には障がいがある方も多いのが現状であり、福祉分野の行政施策ではすでに認識されていることだ。福祉施策は制度の都合ではなく当事者のニーズに寄り添ってこそ初めて有効に働く。
厚労省がコンチェルティーノの活動に着目し、意見を求めた点は評価したいし、連携する自治体の視点も評価する。しかし、なぜ、小さなNPOであるコンチェルティーノにできることが行政にはできないのか?まずはその点を猛省し、もっとコンチェルティーノの実践に学ぶべきであろう。(よしだ・ゆみこ)