「多様な教育機会確保法」 その意味と課題を考えた3時間から

2016年1月12日 14時44分 | カテゴリー: 活動報告

 

昨年12月26日、急きょの開催となった「子どもの権利条例東京市民フォーラムのつどい」。早稲田大学戸山キャンパスにて

本年もどうぞよろしくお願いいたします。

今年最初のご報告です。お目を通していただければ幸いです。

新年早々の14日、第190回通常国会が召集された。――消費税増税時の軽減税率導入を含む税制改正法案や、TPPの承認と関連法案をめぐる論戦が焦点――と新聞報道にはあった。どちらも私たちの暮らしに直接かかわる問題であり、目が離せないところだ。

しかし、当然のことながらそれ以外にも我々市民にとって重要な法案が提出される。「義務教育の段階に相当する普通教育の多様な機会の確保に関する法律(案)」(略称:多様な教育機会確保法(案))は、その一つだ。昨年夏以来、この法案が「座長試案」というかたちで明らかになり、1月の国会提出をめざすという情報が入ってきた。生活者ネットワークが長く取り組んでいる「子どもの権利」、特に「学びの権利」に関わる法案だ。

子どもの権利のひとつとして「誰もが学びの場を保障される」ということがある。現在いわゆる「不登校」と言われる子どもたちが、フリースクールなど学校以外の学びの場を選んで学習しているが、学校以外で教育を受けても憲法262項の普通教育とは認められない。それに対して、「多様な学びの場を認め、学びの権利を保障するように」運動が続いてきた。そういう意味ではこの「多様な教育機会確保法」は、めざしてきたことが一歩前に進むことであり、朗報とも言えそうだ。

ところが、こうした動きに関して不登校の子どもたちの現場サイドや支援組織から慎重論が出てきた。この法案では「学校在籍」や「個別学習計画の提示・教育委員会による認証」などが前提となることから、学校と同様の教育に重点が置かれた家庭の学校化、義務教育の民営化などを招いて不登校の子どもと親を追いつめることになりかねないなどの懸念があるという。また「障害があってもなくても共に普通学級で学ぶ」ことをめざしてきた立場からも異論がある。「多様な教育機会」ということが、障がいがある子どもたちを「分けて」教育する方向を助長するのではないか、という懸念があるということだ。

このままでは共に「子どもたち誰もが学びの場を保障される」ことをめざして活動してきた市民グループの間に亀裂が入ることにもなりかねない事態となり、それだけは避けたいと2015年末、暮れも押し詰まった1226日に「(第14回)子どもの権利条例東京市民フォーラムのつどい」として、パネルディスカッション「『多様な教育機会確保法』の意味と課題を考える」が開催された。法案が審議される可能性が高いことから、国会前の開催が必要と判断したということだ。

急遽の開催決定と呼びかけであったにもかかわらず、当日は80部用意してあった資料が足りず優に100人超の参加となったとのことで、現行の座長試案への危惧とともに、法案への関心の高さが窺われた。私自身、「フリースクールなどが認められるのは大いに歓迎したいし、とくに義務教育課程にある子どもたちであればなおさら『オルタナティブ』な学びの場が保障されてしかるべきだと思う一方で、不登校を生み出し続けている学校現場をそのままにして『不登校解消』の手段に使われる懸念はないか?」等々、感じるところもあり、是非パネリストの皆さんの議論を訊きたいと思って参加した。

会は荒牧重人さん(子どもの権利条例東京市民フォーラム運営委員)の進行で進められた。パネリストは喜多明人さん(子どもの権利条例東京市民フォーラム代表)と奥地圭子さん(NPO法人東京シューレ理事長)のお二人。それぞれから法案の必要性を提起する立場から報告があり、その後荒牧さんをコーディネーターに三者によるディスカッションとなった。会場からは質問用紙による質問を募り、3人からそれぞれ回答。その後会場との意見交換と進められた。当初予定の時間をオーバーして、熱のこもった議論となったが、なかなか意見の一致というところまでは行きつかなかった。

喜多さんが報告の冒頭で「この法案に対して、ただ今賛否をたたかわせることは本質の議論ではない」ということを強く言われた。理由として、①法案はまだ作業チーム案(=座長試案)であり、法案として確定していないこと、②市民団体相互の信頼関係維持を優先すべきこと、③法案については長期的展望に立った判断が必要であり即時的判断は早計であること――を挙げられた。この法がどんな位置にあり、どのような意義と問題点を持っているのかを理解し、議論を深めていくことが必要だということであり、私はこの点について深く共感した。

会場から「法案に懐疑的な立場のパネリストも招くべきだった」という意見があった。今回は急な開催であったため、複数の関係者に参加を求めたものの残念ながら日程が合わなかったということ。私も意見が違うパネリスト同士の議論を聞きたいと思う一方で、すでに具体的な課題点については出揃ってもいることから、私自身、地域の子ども、保護者の立場に立って、子どもの権利を基盤に置くオルタナティブな学びの場の必要性とよりよい制度原理について、さらに学び、深める動きを継続していくことが問われているのだとも思う。

とくに、法案の焦点となる「個別学習計画」の作成・認証が、いったい本当に必要なのか? 韓国ではすでに400を超えて全国に広がる、第三者性を確保した子どもと親支援センター機構が実現しており、オルタナティブ教育が公教育と肩を並べているとも聞く。今後の法案の行方を細大漏らさず注視していくと同時に、地域でも色々な立場の人たちから意見を聞き、議論の場をつくっていくことが重要だと強く感じた、そして「真のインクルーシブ」とは、について考えに考えさせらることになったパネルディスカッションだった。<よしだ・ゆみこ>